第3章 好機な誘惑【エルヴィン】*
「分隊長?随分と体調が優れない様子ですが。」
抱えられたさんを見ると、肌がピンク色に染まっている。
纏ったネイビーブルーのドレスとのコントラストが美しかった。
泥酔しているだけか?
それにしてはうなされている様子だ。
「ガブリエール卿に偉く気に入られてな。私たちが他の伯爵と話をしている間に飲みまくったらしい。」
「しかし、分隊長がそんな事しますかね。自身の限度を見誤るなど…」
「にわかに信じ難いかもしれんが、このザマだ。今回の融資はいつもの5割増。そのほとんどをが成立させた。酒浴びて持って帰ってきた成果って訳だ。」
普段冷静な分隊長が今回はとても張り切ったのか?
それも自力で歩けなくなるほどなんて。
団長と第一分隊長の二人が見ていないのなら、本人に聞くしかないのだろうが。
「という事だ、エルヴィン。を頼む。」
「は…?」
「俺たちはが体を張って集めた小切手たちをまとめて書類と一緒に経理部に持っていかねーとだ。こいつを部屋まで連れて行く時間すら惜しい。」
そう言うと自分の腕から俺の元へ分隊長を押し付けた。
指示されたのなら従うまでだ。
動かされると気持ち悪いのか、口元に手を持っていき「んん…」と声を漏らしている。
これは相当だな。
「よろしくな、エルヴィン。」
「はい。お疲れ様です。」
経理部のある棟へ歩き出した二人を見送ってから、俺は彼女の部屋のある幹部棟の女子寮へ
向かおうとしたのだが、それは彼女の一言で妨げられた。
「エル、ヴィン……私の…執務室へ、連れてって…?」
「え…?わかりました。」
執務室は兵舎よりもここから近い。それに女子寮へ入るのも気が引ける為分隊長の言葉は有難かった。
静まった本部に俺の足音が響く。
「ごめん、ね…エルヴィン…」
「いえ、大した事ではありません。今日の夜会では分隊長が大活躍だったと聞いてます。しかし、ここまで飲み過ぎるのは身体に毒です。」
「…こうなったのには…っ訳があるの…」
「へぇ。後で聞きます。」
螺旋階段を登ったすぐの部屋。ここが彼女の執務室だ。