第25章 新しい生活※
「まだ足りないか?」
『なっ...別に、そんなんじゃ』
「物欲しそうな顔してる」
ふ...、と目を細めて優しく笑いながら私の頬を撫でるイレイザーヘッド。
『...っ、してません』
「寮、戻るか?」
『今戻ったら、他の先生に怪しまれそう』
「朝戻る方が怪しまれるだろ」
『確かに。少し仮眠してから、朝早くに戻るでもいいですか?』
イレイザーヘッドの返答を聞くより前に裸のまま胸元まで布団を被り、私はすでに寝る支度を整えていた。
「ハ...急によそよそしくなりやがって。」
じゃあ俺はソファで寝るんで、と言いベッドから立ち上がるイレイザーヘッドの手首を掴んだ。
『隣、いてよ...』
ベンチでの出来事といい、自分の積極性に心底驚く。以前なら敵として軽蔑するように避けてきたこの男に、馴染みのない感情が芽生えていた。
「まぁ、俺のベッドだしな」
そう言いながらゴロンと私の横に仰向けになるイレイザーヘッド。
「先を生きている身として言わせてもらう」
そう言ったイレイザーヘッドの言い方はまるで教え諭すような、普段の授業の時の教師としての言い方だった。
その口調がまるでこれから説教でも始まるのかと思い身体が強張る。仰向けのまま耳だけをイレイザーヘッドへ向ける。
「お前の、色恋に口出しするつもりはないが自分を大事にしてくれないようなセックスをする男はやめておけ」
『だから彼氏じゃないってば』
「彼氏じゃなくても、だ」
じゃあ今、生徒と身体を重ねた自分はどうなんだ、という言葉が私は喉まで出かけたがすぐに飲み込んだ。
この男の私に対しての感情を聞いてしまったら間違い無く私は戻れなくなると確信した。