第25章 新しい生活※
教師寮は同じ雄英の敷地内にあり、クラスの寮から歩いて1分もかからない所にあった。
大きな扉を開けて中に入る。作りは生徒の寮とさほど変わりはなく、強いて言うなら築3日だというのにやはり大人が多いためなのかほんのり珈琲豆の匂いがした。
「あら?あなたは確かA組の...さんだったわよね。こんな時間にどうしたのかしら?」
迎えてくれたのは女の私から見ても性を感じさせるような風貌の目の前の教師。まだ学校では数回授業を受けただけだが、こうして正対すると左目の下の泣きぼくろが印象的だった。
名は確かミッドナイト。
『あの...相澤先生に用があって。』
こんな時間に不信がられるだろうかと思いきや、ミッドナイトは特に理由を聞くこともなくイレイザーヘッドの部屋を教えてくれた。
「あ、けど彼寝起きは悪いから気をつけてねッ」
まるで語尾にハートがつきそうな言い方で、わざとらしくウィンクをしてきたミッドナイトになぜだか今までに感じたことのない感情を抱いた。
4階まで上がったら右に曲がって一番端っこの部屋。
ミッドナイトに言われた部屋へ向かう。階段を登っている途中、向かいから降りてくる人を見て声が漏れた。
『あ...』
「おや、君は」
この姿で対面するのは初めてだ、と感じた。先日テレビで見た、現役とはまるで違い痩せこけた痩身の男。
その現役を奪ってしまったのは紛れもない私たちなのだけれど......。
『オールマイト先生...』
「爆豪少年と共に攫われたと聞いて心配したよ。私が直接助けに行けなくてすまなかった。怪我はもう大丈夫かい?」
自分の個性が無くなったというのに目の前の男は他人である私の心配をしているのだ。その事実に眩暈がして、伏し目にしてしまう。
ヒーローを引退してもなお他人を案ずるその人格。
あぁ、だから平和の象徴と呼ばれていたのかと納得する。
あれ?とそこで私が違和感を感じたのは、再び顔を上げてオールマイトを見た時だった。
どうして私いま、この男に個性が無くなったって分かるの?
だって以前はデクくんとオールマイトはまるで靄がかかったように個性がはっきりと見れなかった。
でも今は?
さっきまで無意識で使っていたであろう自分の個性を今度は意識的に使って、オールマイトの個性を見る。