第25章 新しい生活※
「来てたな。このワープ使いのやつも。合宿に。」
双方で色の違う目をテレビに向けながら今度は轟くんが言う。きっと今この場にいる私以外の全員が林間合宿の出来事について考えているんだろう。
『砂藤くん、ケーキご馳走様。』
「おう!部屋戻んのか?」
『うん。』
ソファから勢いよく立ち上がり、逃げるようにして自分の部屋へ戻った。
その際に後ろから女の子たちの私を心配する声が聞こえてきたけれど気づかないふりをした。
駆け足で自室に戻りベットに傾れ込む。その振動でサイドテーブルに置いてあった写真立てが音を立てて倒れた。
『はぁ...』
時計を見れば21時を指している。イレイザーヘッドに言われた時間まであと2時間もある。
そもそも私はイレイザーヘッドの元へ行くのだろうか。自分であんな大胆な事を言っておきながら今更ながらに恥ずかしさを覚える。
うつ伏せになったまま目を閉じた。砂藤くんから貰った手作りケーキまた食べたいなと感じながら私は深い黒に身を投げた。
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身体の痛みで目が覚めた。うつ伏せのまま寝ていたせいだろう。
時計を見ると22時30分になるところだった。指定された時間まであと30分だというのに不思議と焦りはない。
23時以降に来い、だったかもしれないと段々と私は自分の都合のいい解釈をしていた。
汗で頬に張り付いた髪の毛を払ってベットから降りて伸びをする。そこで自分の部屋にお風呂が完備されていない事を思い出す。
昼間の説明でイレイザーヘッドが言っていたはずだ。
風呂支度をして1階の共有スペースに行くと既に誰もいなくて安心する。
先ほどまで皆で囲んでいたテーブルの上には、達筆な字で『ばくごー用』と書かれたメモにシフォンケーキがあった。それを横目に足早にお風呂場へ向かい疲れた身体を休めた。
赤い暖簾を潜ると目の前の青い暖簾から出てきた、予想外の人物に驚いた。
『あ...』
「てめェ...」
『かっちゃん、起きたんだ。もう寝てるって、さっき誰かが言ってたから。』
「あ?起きたら悪ィんかよ」
普段なら絶対声を荒げて言いそうだが、声量を抑えているのは上の各フロアで既に寝ているクラスメイトへの配慮からだろうか。