第25章 新しい生活※
「それは、少しは俺がお前の悩みのタネを潰すことが出来たとの解釈でいいか?」
『うん。少しは、ね。』
このあたりで私は仮にも生徒としての丁寧な話し方と、いつもの口調が混ざり始めていた。表と裏のどちらで向きあうべきか判断がつかなかったのだ。
歯切れの悪い答えになりながらも、イレイザーヘッドの首元に目がいった。
いつもは捕縛布で隠れている首が今は露わになっている。
先日の合宿襲撃の事を思い出しながら、イレイザーヘッドの方へ身を乗り出すようにして腕を伸ばして首筋をなぞった。
あの時私はこの首に力を入れて息の根を止めようとしていたんだ。
その事実に眉を歪めてしまう。
「ッ、おい......」
私の行動を怪訝に思いながらも、目の前の男の目線は寮の方へ向いていた。寮の中を心配しているのだろうか。
『大丈夫ですよ。他のみんなは今、お部屋披露大会してるんだって。』
首筋をなぞりながら、ごめんねと呟いた。同時に再び唇を目の前の男に押し付けた。
唇を重ねながら最近、人に対して謝罪の言葉を口にすることが増えたなと感じた。けれどその言葉はきっと誰にも届いてないし、自己満足にすぎない。
あの時痛かったよね、苦しかったよね、ごめんなさいと訴えるようにイレイザーヘッドの唇を啄んだ。
『んっ....』
「おい、どういう了見だ」
頬を両手で掴まれたまま引き離され唇が離れた。
あぁ、いつもこうだ
『...っ、お願い......イレイザーヘッド。今だけ、今だけでいいから。』
合宿に行く前も、弔くんに
合宿襲撃時にイレイザーヘッドを殺せなかった時も荼毘に
この男に正体がバレそうになった時もトガちゃんに
不安を感じた時、どうしたって私は人に触れたくなってしまうようだ
それは先生に初めて会ったあの日に、先生に触れられたあの日に知ってしまったから。
「......場所が悪いな。本当にその気があるなら、教師寮、俺の部屋に来い。大人を揶揄うとどうなるか教えてやる。俺は先に戻る。」
静かに立ち上がり、教師寮へ戻っていくイレイザーヘッドの背中を見つめた。
ヴィランとヒーロー、そんな事はもう頭から抜けていた。