第25章 新しい生活※
自分から目の前のイレイザーヘッドに唇を重ねた。目を丸くして驚いた様子だったけれど、押し退ける事も罵倒される事もなかった。
──信頼を取り戻してくれるとありがたい
昼間にイレイザーヘッドがデクくんたちに言っていた言葉を思い出した。
信頼。
『信頼を取り戻してほしいって言ってたけど、コップから溢れた水が元に戻らないように失った信頼を取り戻す方法ってあるのかな。』
ヴィランが信頼なんてさ、と無意識に出てしまった言葉にハッとしたがどうやらイレイザーヘッドには聞こえていなかったらしい。
「変わりたい、その人の気持ち次第じゃないか」
『気持ち?』
「あぁ。確かに信頼を取り戻すのは難しいよ。どうしたって過去は変えられないからな───」
過去は変えられない。
イレイザーヘッドのその言葉がぐさりと刺さった。
けどな、そう言ってからイレイザーヘッドが言葉を続けた。
「未来は変えられる」
『未来......か。そっか。うん、そうだね。』
私は身体の芯を矢で射られたかのように震えた。棒読みで答えるのがやっとだった。
未来、なんて。ヴィランの私には無縁な言葉だと思ってるからだ。好き放題やってきた自分に明るい未来が来るなんて到底思ってない。
きっと正体がバレたら私は、先生と同じ。ヴィラン収容所、タルタロス行きだ。
『今この瞬間、ここに来たのがイレイザーヘッドで良かったな。』
本音だった。この男と話をしてぐちゃぐちゃになっていた感情が少し和らいだ。
生徒と教師である以前に私たちはヴィランとヒーローだ。自分への戒めの意味も込めてイレイザーヘッドと、はっきりそう呼んだ。