第25章 新しい生活※
相澤side
寮内の説明を一通り終えて、荷造りを終えた生徒たちの様子を見に行こうと俺は自分のクラスの寮へ向かっていた。
クラスの寮の前のベンチに座っている見慣れた姿を見つけた。だ。
夏といえど夜は冷える。中に入らないのかと聞けば浮かなそうに、風に当たりたいと。そう答えた。
ふと、寮の窓明かりに照らされたの目が赤いことに気がついた。伏せた睫毛が煌めいていて光っているように見える。泣いていたのか?
無言での隣へ腰を掛け、彼女ををジッと見る。近くで見るとやはり目が赤くなっていた。
気づけば俺は無意識に手を伸ばしの白い頬に触れていた。
『な、に......』
「なんかあったのか、大丈夫か」
『え......?』
自分で聞いておきながら愚問だと思った。神野の拉致被害者であるコイツが普段通りなわけがあるかと。
「いや、あんな騒動の後で大丈夫なわけ、がないよな。悪い。言葉を間違えたな──」
そう言いながらも今この状況で、気の利いたベストな言葉がすぐに浮かんでこないのが悔しかった。
「あんまり抱え込むなよ」
『ッ...、別に、なにもないです。』
そんな俺のありきたりな言葉に早口で言葉を返してきた。の表情に一瞬、戸惑いのようなものを垣間見た気がした。こいつの狼狽を見るのは初めてかもしれない。
そしてなにかを言い淀んだ後に、熱を含んだ瞳でジッと見つめられた。やがて長い睫毛がゆっくりとその瞳を隠していった。
それは本当に一瞬の出来事だった。
の頬に触れていた俺の手を一気に引き寄せ、気づいた時には俺の視界にはの整った顔があり、自分の唇にの唇が重ねられていた。
.......は?
どのくらいそうしていたのかは分からない。
コンマ1秒だったのかもしれないしあるいは、それ以上。長い間そうしていたのかもしれない。時間の感覚が分からなくなった。
「ッ、おい.....」
少ししての柔らかい唇が俺から離れていった。
俺は自分から押し退ける事はしなかった。
いや、出来なかったんだ。に当てられた唇が、から伝わる温度が、感触が心地よく感じてしまったからだ。