第25章 新しい生活※
隣に座ってきたくせに、何を喋るわけでもなく前屈みの姿勢のまま首だけをこちらへ向けジッと私を見るイレイザーヘッドに気圧されてしまう。
何もかも見透かすようなその目に耐えられなくなり、目を逸らした瞬間イレイザーヘッドの手が伸びてきて指先が私の頬に触れた。
『な、に......』
触れた指先からじわじわと熱が広がるような感覚。緊張なのか恥ずかしさなのか名前の付けようのない感情が目の前の男にも伝染するのではないかと、そんな錯覚すら起こした。
「なんかあったのか、大丈夫か」
『え....?』
「いや、あんな騒動の後で大丈夫なわけ、がないよな。悪い。言葉を間違えたな」
なんと声をかけるのが正解なのか、まるで探るように考えてからイレイザーヘッドが続けた。
「あんまり抱え込むなよ。」
『ッ...、別に、なにもないです。』
私は話を打ち切るために早口に言った。これ以上一緒にいれば、私はこの男の前で弱音を吐き始める恐れがあった。自分の正体を明かしてしまうかもしれない。縋りついて泣き出す可能性だってあった。十分にあった。
自分でそうなるかもしれないと、分かっていたから。だからこそ、次に動いた自分の行動にはさほど驚きはしなかった。この男の前で弱音を吐くくらいなら、喋ってしまう前に、と。
今にも言葉を発してしまいそうなこの口に歯止めをかけるのは自分だ。
私の頬に触れていたイレイザーヘッドの手を思い切り自分の方へ引き寄せ目の前の男に自分の唇を重ねた。