第23章 ただいま
『あ、荼毘』
大きな欠伸をしながらお風呂へ行こうとしていた荼毘を引き止めた。
「なんだ、今度は風呂の誘いか?」
口の端を吊り上げながら青い瞳が私を捕らえた。
『...ッ!ちがう...、轟くん──』
気のせいだろうか。
轟くん、と言った瞬間荼毘の表情が歪んだ気がするのは。
『あ、いや。轟焦凍とは知り合い?さっきなにか話してなかった?』
「........知り合い、ねェ......。まぁ......そんなところだ」
あ、またこの目だ。
荼毘のこの目を見るのは2回目。初めて荼毘と出会ったこのアジトでソファの上での行為の時にもおんなじ目を見た。目の前の私ですら映ってないような。どこか遠くを見るような目。
いつもの荼毘なら、自分の判断に迷うことなく因循な態度をとることも少ないのに歯切れの悪い反応に違和感でしかなかった。
でもそれ以上は聞けなかった。正確には聞くことができなかった。荼毘の表情が明らかにこれ以上踏み込んでくるなと言っているのに気付いたから。
『そう。引き止めてごめんね。』
「お前も早く寝ろよ。」
『ん...』
そう言って、私の頭を撫でる荼毘。その声色と表情はいつもの甘い荼毘だった。
さっきのは、なんだったのだろうと思いながらも私はバースペース後にする荼毘の背中をジッと見つめた。