第1章 報われない(五条/夏油夢)
「ほら、行くよ」
五条の頭ポンポンに戸惑い、今だに床に座り続けている私に夏油は手を差し出す。
「う、うん」
もうよく分からないから、その手をそのまま取ってみる。すると強く、けれど優しい力で私をスッと立たせてくれた。
「あ、ありがとう…?」
「ん、どういたしまして」
手を離そうとしたら、離されず。
更にギュッと掴まれてしまった。
「え…なっ、な」
「オラ、さっさと歩けよ」
更には五条までもが私の手を取り歩き出す始末。ど、どうゆうこと?!この二人に手を繋がれている状態なんて…?!
好きな人と手を繋ぐのは夢だったけど、こんな風に叶うなんて…っ
…五条の手は、大きいけど薄くて。
指はスラッと細長く、指先までも隙がなくキレイだ。
夏油の手はとても厚い。私の手を簡単に包めるくらい、大きくて男らしくて、ゴツゴツとしていた。
五条と夏油の手はこんなにも違うのに、二人の手はとても熱く、心地よかった。
………だめだっ、本当にだめ!
こんなの知ってしまったら、離れられなくなる
好きが、加速する
「……は、離してよっ」
「誰が離すか」
「離したら逃げるだろう」
グイグイと強引に引っ張られる。だんだんと校舎の外へ向かい出す。
「ま、待って!どこ行くの?」
「いつものゲーセン」
今日は一緒に行きたい
一緒に遊びたい、なんて。
こちらを見向きもせず、素っ気なく言われる。
それでも、そんなことを言われてしまったら。期待してしまうではないか。
「〜〜〜っ"」
胸の奥がくすぐったい。
夏油と五条の大きな背中を見ながら、こちらを振り向かない二人に「よかった」と安諸する。
きっと私、顔が赤い
嬉しいけど、恥ずかしくて。
何を言えばいいかわからなくて。
たぶん、私だけが何か勘違いしてる気がする。
「わ、私!行かない…っ」
だ…ダメダメっ!
現実見なきゃって、誓ったばかりなんだから
「どうして?」
「あぁ?何でだよ?!」
二人がやっと私の方を見た。
珍しく比較的柔らかい雰囲気を醸し出す今ならば、言っても大丈夫かもしれない。