第3章 変わらないもの(七海夢)※
息が止まる。
七海のこんな顔、見たことあっただろうか。
昔、儚げな雰囲気を纏う事はあったけれど。
守ってあげたくなるような、受け入れてあげたくなるような。けれどそれと同時に、男性特有の逞しさや包容力を感じた。
私を見つめる七海の美しい瞳は真剣さからか、熱を帯びていた。
二人の間には先ほどとは異なる穏やかな空気で包まれる。
だけど、私の頬に触れる七海の手は、ほんの僅かに震えている。その震えを止めてあげたくて、無意識にその手に自分の手をそっと重ねた。
私の行動に驚いたのか、七海の目は更に大きく見開かれた。
「七海…?」
私の問いかけに答えず「―――ふ」と、目を細めて微笑む七海に釘付けになった。愛おしそうに微笑む七海に。
「―――今も昔も、
大切なものは貴女です」
「え…?」
七海の微笑みに目を奪われていたため、言葉の意味をすぐに飲み込めなかった。
七海の大切なものが、わた……し?
「それこそ、高専の時から」
“大切なものは貴女です”
“高専の時から”
七海の言葉を、頭の中で何度も何度も再生させる。だって意味が分からない。
七海の大切なものが、私だった。
高専の頃から、私が大切だった。
「うそ、だ…っ」
七海の言葉をどうにか噛み砕いて飲み込んで、開口一番に出たのは否定の言葉。
「昨日も言ったじゃないですか」
「し、知らな…!」
「酔いつぶれてましたからね」
全く貴女という人は、と。七海は溜息をついた。
「よ、酔っ払いをからかっ…「私は」
冗談で済まそうとする私の言葉を、七海は強く遮った。
「大切なものを守るために
今度は私の意志で、呪術師になったのです」
夢見たい。
七海も、私を想ってくれていたってこと?
こんなに嬉しいのに、なんて言えば良いのか分からない。
あの頃の私―――高専時代の私だったら。
素直に、可愛らしく、喜べたのかな。
「こっち見ないで」
七海の手を振り切りフイッと背を向ける。
嗚呼、なんて可愛くない女だろう、私って。
「どんな顔していいか、わかんない」
嬉しいのに、素直に喜ぶことは出来ない。
だって、私は……私は………