第3章 変わらないもの(七海夢)※
「わっ!ご、ごめ――――」
直ぐ様謝り離れようとしたら、七海の太い腕が私の背中に回りギュッと締め付けられた。
「な、なみ…?」
七海に抱き締められている。
そう気づくのに何秒もかかってしまった。
「すみません」
「え…?」
あの七海に。
高専時代に恋した七海に、抱き締められている。
…あの頃は今ほど体格差もなかったのに。
昔はひょろっとして、モデル顔負けのスタイルだった。腕も細くて、胸板もこんなに厚くなかったはずだ。
嗚呼、男の人になった七海に
私は抱きしめられている。
…当時、この状況を、どれだけ夢見たことだろうか。
現状判断した瞬間。
体が緊張で強張り、血液全てが沸騰し、毛穴から汗が吹き出す。心臓が痛いくらい高鳴りときめいた。
都合の良すぎる夢かと疑うくらい、信じられなくて、涙が出そうになる。
「私は逃げました」
七海の抑揚のない声にハッと我に返る。
「…………………ふふっ、
逃げたほうがいいよ。こんな業界」
この抱擁は、私が期待したモノじゃない。
高専時代の先輩として、親愛からくるものだ。一瞬でも勘違いしてしまった自分が恥ずかしくて、惨めで。なんて愚かだろう。
そう自覚したら急激に身体の火照りが消えた。冷えた手で、七海の大きな背中をポンポンとあやす。高専時代の先輩として。
「私もね、逃げてるよ?
強くなる努力を怠って、見たくない現実から目を背けてる。
未練からどうせ逃げれないのに、今か今かと逃げ出す準備をしてるの」
自嘲気味に笑うしか出来ない。
「私は」
七海は何か言いかけながら、更にギュッと力を入れて私を抱きしめてきた。七海の行動に、私の心臓が驚いて飛び跳ねた。……やめてよ、勘違いしちゃう。
「私は貴女の支えになりたいと思ったのに、逃げたんです。
また仲間を。貴女まで失う瞬間を目の当たりにするかもしれない。そう思ったら同仕様もなく怖くなりました。
――――貴女を残して、すみません」
七海の言葉に、息が止まりかけた。
そんな風に、思ってくれていたの…?
「お願いですから。
もう、そんな悲しそうに笑わないで下さい」
七海の言葉に、目が見開かれる。
嗚呼。もう、限界だ…