第3章 変わらないもの(七海夢)※
「呪術師のやり甲斐とか、ふざけてるの?
見ず知らずの誰かの為に、感謝もされず。
仲間と自分の命を賭けて戦うことにやり甲斐だなんて…!
そんなの、学生までの綺麗事だよッ」
冗談じゃない…!
言い表せない怒りが沸々と湧き上がる。
「さっき、“他人のために命を投げ出す覚悟を、時に仲間に強要しなければならない”って。言ったよね?
それがやり甲斐とでも言いたいの?」
意味がわからない。
七海の考えてる事が、気持ちが。全くわからない。イライラが止まらない。
自分がどんどんヒステリックになっていくのがわかる。
「ありがとう」
「は?」
「“ありがとう”
という言葉に救われたんです」
「…はい?」
「労働もクソ、呪術師もクソ。
そんなクソの中でも、捨てられないものがあった」
呪術師の仕事しか私は知らないけれど、それ以上にクソな仕事なんてあるのだろうか。
「呪術師を辞めて。適当に仕事して早期退職して、温かい南国で暮らす。卒業してからずっとそう思い描いていました。
サラリーマンをしている時は金のことばかり考えて。富裕層な人達に金を使わせることだけを考えて。その人達が儲けようが損しようが関係なし。
――――苦しかった」
「七海…」
何処か遠くを見るように話す七海。
呪術師を辞めたあと、七海が苦しんでいたなんて微塵も思わなかった。
「この間、呪霊を払って“ありがとう”って言われたんです。
――――光が差し込んだ。
たったその一言に救われんです」
優しい七海は、困っている人を助ける事を選んだんだ。七海らしいやと思うものの、それでもやっぱり……!!
「七海はッ!もっと賢いと思ってたよ!
サラリーマンしてれば良かったのに。
呪術師よりは長生きできるよ?」
私はなんて嫌な奴なんだろう。
呪術師に戻ってきたばかりの後輩に、笑って深い毒を吐く。
胸の内にドロドロと溜まった膿を留めておくことが出来ない。七海も涼しい顔で「そうですね」なんて答えるのが更に腹立たしく感じた。
「自分の命より、大切なモノに気づいたんです」
「ッ」
いいなあ
私にそんなモノはない
あの頃は呪術師として消極的だった七海から、そんな言葉を聞く日が来るなんて……。