第3章 変わらないもの(七海夢)※
「灰原と夏油さんが居なくなった高専は、絶望も絶頂期でした。
―――あの頃の楽しを知ってなかったら、こんな苦しむこともなかったでしょう」
初めて知る七海の胸の内に、私も胸の奥が苦しくなる。
(そっか、七海もあの頃は…)
楽しかったんだ 幸せだったんだ
そう感じていたのは私だけじゃなかったんだ。
いつも気持ちをあまり言葉にしなかった七海の心を知れて、こんなにも胸が熱く高鳴る。
―――――なのに。
「楽しかったあの頃の思いが相反すればするほど、相乗して
大切な仲間を失う苦しさに耐えられなくなったんです」
その気持ちは痛い程気付いてたよ。
あえて誰も言葉にしなかった…ううん、言葉に出来なかった。
この胸の熱い高鳴りは嬉しさからなのか。悲しみからなのか。
自分の命を賭けても守りたかった仲間を失う悲しみだけは。間違いなく皆平等に味わわされていた。
「―――貴女は。
楽しかったあの頃の、いつも中心でした。
また、絶望したあの日の。象徴にもなりました」
七海の言葉に、何も言えなかった。
懐かしくて。寂しくて、悲しくて。
七海を独りにして良い理由なんてなかったのに。
どうして私は七海の傍に居られなかったんだろう。居てあげなかったんだろう。
「貴女を想えば想う程、悲しみが深くなる。
だから、逃げた。全てを捨てた」
私は嫌われていた訳ではなかった。
その事実がこんなにも嬉しいのに、同時に同じくらい怒りと後悔が湧き上がってくる。
どうして……
「―――…どうして、今更戻ってきたの?」
呪術師に失望させて、辛い思いをさせてしまった事。また、七海が辛い時、何もしなかった自分に腹が立つ。
「やり甲斐」
「はい?」
聞き間違いとしか思えないワードが七海の口から飛び出し、思わず聞き返す。
「やり甲斐、ですかね」
「…は?……バッカみたい…っ!!!」
良かれと思って、呪術界から立ち去る七海に何もしなかった事。そして七海をまた呪術師に戻してしまったことに後悔が押し寄せる。