第3章 変わらないもの(七海夢)※
「まぁー、私には連絡してくれなかったけどね!」
大袈裟に拗ねるフリをする。
本当は思うところが色々とあるけれど、七海が少し困ったように眼鏡をクイッと上げ直したのを見て「困らせるのはこれぐらいにしといてあげよう」と思った。
「…まず五条さんに連絡すれば、復帰の話は早いと思いまして」
「それは間違いない」
「呪霊を見かければ嫌でも昔の事―――高専時代の事や、灰原を思い出しました」
七海の口から出てきた灰原の名に驚く。
そっか、思い出してくれたんだと嬉しくなった。
「しかし、貴女の事は思い出さないようにしました」
そっか、私の事も!…ん?
思い出さないように、しました…って?!
「え…酷くない?
昔それなりに仲良かったじゃん!?」
当時、沢山振り回したり迷惑かけたりしちゃったけど。除け者にされるのは、流石に傷つく…
「はは、は」
乾いた笑いが精一杯で、頭を掻きながら平気なフリをする。
「貴女を思い出すと、辛くなりましたから」
「え…?」
「あの頃が絶頂期でした」
高専時代は楽しかった、と。
七海がポツリと呟く。私の聞き間違え…?
「灰原と夏油さんがいた高専は、楽しかった」
「っ、」
久々に聞く名前。
灰原の名前もそうだったけど。それ以上に私達は暗黙の了承で口にしない、出来ない名前がある。
大切だったのに、一緒にいられなくなってしまった彼…
「―――夏油、かぁ」
とても懐かしい響き。
いつぶりだろう、夏油の名を口にするのは。言葉にしなかっただけで、忘れたことなんて無い。
「…夏油、元気かなあ」
「どうでしょうね」
夏油と五条の最強コンビ。
凄い二人なのに馬鹿でアホで、問題ばっかり起こして。それを見て私や硝子、灰原が笑ってて。七海は呆れてたけど、どこか楽しそうだった。
「今思えば、夏油さんの気持ちも分からなくはないです」
「え…っと、それは呪詛「呪術師を辞めた理由です」
私が「呪詛師になる気持ち?」と聞く前に七海がズバッと遮ってくれた。
「他人のために命を投げ出す覚悟を、時に仲間に強要しなければなりませんから」
ホントそれね。言い返す言葉もない。