第3章 変わらないもの(七海夢)※
ずっとしゃがんでいたため「足がしびれてきた」と、立ち上がって伸びをする。
…わざとらしいかな?
七海の顔はまだ見れなくて、星が瞬きだした秋空を仰いでみる。
星なんて興味ないし、綺麗なんて思わない。ただ光ってるとしか感じない。
「やっぱさ!学生と社会人って、全然違ったんだね。
今までは子どもだったから、知らず知らず守られてて。いざ高専卒業したら、後ろ盾は無くなってて、目の前のモノ守るのに精一杯で。
それさえ守りきれずに、今までいくつ取りこぼしてきたか分かんない」
たくさん死んだ。
先輩も、後輩も、補助監督も、助けたかった人も。
「私にはもう、何も無いから。
せめて目の前で私の助けが必要な人がいるなら、助けてあげたいなって。
こんな残酷な呪術界に、優しい七海が来なくてよかったと思ったの」
「貴女は、昔から変わらず仲間思いですね」
「はは、そうだったら良かったのにな」
私が仲間思いな訳ないじゃん。
本当に仲間思いだったら、七海をまた呪術師になんてさせないのにね。
「ねえ!見てよ、私の中二病アドレス」
「はい?」
話を逸らすために、再び昔の話題を出す。あの頃の話なんて、探さなくてもいくらでも出てくる。だって、私が一番幸せだった時だもの。
「イニシャルと…loveforever20060925…日付ですか?」
「そ!当時の元彼のイニシャルと、記念日。
私達が高専の頃って、ガラケーのメールだったじゃん?彼氏彼女できるとメアドに記念日入れてアピールしてさ。別れると速攻でアド変したよね笑」
「そんな文化知りませんが」
「いやいや、あったよ!」
心底どうでもいいという顔をする七海。
えぇ、そんなに恋バナを嫌がらなくてもいいじゃない…?!!
「とっくの昔、付き合った数カ月後には別れてたのに!すっかりアド変忘れててさ」
「へえ」
本当に興味なさそう…というか、迷惑そうに話を聞き流す七海。それでもきちんと返事はしてくれるところが流石です。
「SNSを中心に使うようになるくらいにやっと気付いて!アド変しようかと思ったけど、もう七海は呪術師辞めてて。
アド変しちゃったら、七海と本当に連絡取れなくなりそうな気がして。
そう思ったら変えられなかった」