第3章 変わらないもの(七海夢)※
「タバコは、お線香の変わり。
…というか、昔に浸りたい時に火を点けるだけ」
七海は少し驚いた表情するも、すぐ納得したのかいつもの仏頂面に戻る。
「昔、家入さんがよく吸ってましたね」
「ね!今は禁煙したんだ「」
話づらいと思っていたのに、聞き上手の七海に私が勝手に乗せられて、思い出話に花を咲かしてしまった。
「この間さ、七海の卒業式の夢を見たの」
桜満開の、七海ひとりの卒業式。
桜と七海の美しさと儚さが相成って、目が離せなかった。今でも昨日の事のようにはっきりと思い出せる。
(今なら言えるかな。あの時の気持ち)
お酒、ほとんど飲んで無いから酔ってないけど。変な事を口走ったら、全部お酒のせいにしてしまおう。
「――――皆で、大人になりたかった」
硝子や五条にすら言えなかった気持ち。
みんな口にしないだけで、そう思っている。
「あの時――――――卒業式の日。
何て言おうとしてたんですか?」
「え…?」
「何か言いかけてましたよね。
当時、私が遮ってしまったんですが」
「よく覚えてたね、そんなこと…」
かく言う私もよく覚えている。
今だったら素直に言える。七海も聞いてくれる。
「心残りでしたから」
七海はちょっぴり俯いて眼鏡を直すので、どんな顔をしているか見えない。けれど声音が今までに無いくらい優しくて、それに甘えて私はぽつりぽつりと話し出してしまった。
「私ね、当時…当時だからね!
七海のこと好きだったと思うの」
「――――……そう、だったんですか」
言ってしまった。
ずっと誰にも言わず秘めていた当時の気持ち。
「告白、しようとしたのかもしれない。
それとも引き留めようとしたのかも。
それか、呪術師辞めてもたまには会おうねーって」
今、七海はどんな顔をしているんだろう?
知りたいけど、怖くて振り向けない。けれど一度開いた口は止めることが出来なかった。
「全部、言いたかったよ。言えなかったけど」
「―――私が、聞く勇気がなかった」
「そんなことないよ。
でもしばらくしてから、言わなくてよかったと思ったよ!」