第3章 変わらないもの(七海夢)※
「美味しい…!」
「そうですか」
野菜と肉がよく煮込まれたスープは、疲れた身体にじんわりと温かさと栄養が広がっていくようだった。
「なんか、ちゃんとした食事って久々かも」
「そんなに忙しいんですか?任務は」
「えーっと、任務も、だけど…
プライベート、かな?」
七海を目の前にして流石に本当の理由を言えず、濁してしまった。
いつも任務が終れば、出会いを求めた飲み会へ赴いている。任務がなければ朝から婚活パーティーやら合コン三昧だ。
そうゆう場でも軽食は出ることが多いので、そこで軽くつまむ程度で済ませてしまう。もちろん栄養バランスなんて気にしていない。
(七海はきちんとしてるなぁ)
昔からそうだったもんね。
食べ方も綺麗だなぁ…というか、気品や色気すら感じる。
(それに比べたら私なんて)
急に恥ずかしくなる。
女の若さという“今”しか取り柄のない、自分自身に。
「―――高専の時も、」
「えっ、な、なに?」
ぼんやりしてしまい、吃った変な返事をしてしまった。
「よく、皆で食事しましたね」
「食事っていうか…コンビニでごはんとかおやつ買って、駄弁ってたね」
「共有スペースに誰かしら居ましたから」
「そうそう、みんな各々何かしら持ち寄って屯してたよね!」
「あとは誰かの部屋で鍋とか」
「いっつも闇鍋だったじゃん!
たこパもあったけど、五条が変なもの入れだすから、途中からロシアンルーレットみたいになったし!」
「わさびや辛子入りなんて全然まともでしたね」
「確か、七海って、あのとき…」
(…楽しい)
七海と、またこんな風に話をする日が来るなんて。嬉しくて、とても懐かしい。またあの頃のように仲良くなれるかもしれない。封印していた昔の記憶やあの頃の感情が次々と蘇る。
「食事って言えるとしたら、アレじゃない?」
「アレとは?」
「ほら!唯一、灰原が準備してくれ―――…」
シ―…ン、と静まり返る空気。
自分の発言に顔が青ざめる。
楽しかったあの頃を共有したかっただけなのに。
楽しさと懐かしさに浮かれて、失言してしまった。七海にとって触れてほしくない思い出だっただろう。