第3章 変わらないもの(七海夢)※
七海に促されるまま伊地知に電話をする。
「昨日、七海さんから連絡貰って今日は非番にしておきましたよ」と。
更には「具合が悪いとのことで。最近任務詰め込んでましたから、こちらのことはお気になさらず」と通話が切れた。
「…ほんとだ、非番だって」
突然突きつけられた休みに戸惑ってしまう。
そっか、今日は休みか。
合コンも飲み会もデートもないオフの日っていつぶりだろう。何して過ごせばいいんだろう?予定のない休みの日の過ごし方がわからない。
「食事、食べれますか?」
「え、あ、うん………あっ、でも!
家に帰ってから食べるよ!」
これ以上七海に迷惑をかける訳にはいかない。一刻も早く御暇しなくては…!
「温めるだけなので、食べて行って下さい」
「え!?七海、待っ……、!」
寝室を出ていく七海を追いかける。
そしてテーブルの上に置かれているそれらに気づく。
それはきっと朝食として作られた食事だったのだろう。彩りの綺麗なサラダと、目玉焼きと、こんがり焼かれたベーコンがお皿に盛られ、ラップが掛けられていた。
「今、スープを温めますので。
座って待っていて下さい」
「う、うん…」
絵に描いたような美しい朝食に、なんだか気後れしてしまう。
食欲が唆られるスープの匂いと、オーブントースターからパンが焼かれる香ばしい匂いが、どんどん部屋に充満していく。
今更だが部屋を見渡せば、選び抜かれたスタイリッシュな家具。一見物が少なく感じるけど、丁寧な暮らしが覗える。
ベッド脇に読みかけであろう本が少し乱雑に小山ひとつ分あるが、必要な物を必要な分だけ、無駄の無い生活をしている事が分かる。
私とは大違いだ。
「どうぞ、冷める前に食べて下さい」
「あ、ありがとう」
七海と向き合って「頂きます」と手を合わせる。あの七海に食事を振る舞ってもらうなんて、何だか緊張しちゃう。おそるおそるスープを口へ運ぶ。
「美味しい…!」
「そうですか」
野菜と肉がよく煮込まれたスープは、疲れた身体にじんわりと温かさと栄養が広がっていくようだった。