第3章 変わらないもの(七海夢)※
『怒らないで下さいね』
『へ?……う"っ?!!』
突然。口の中に七海の指が入り、喉の奥をグッと押される。そして私は全てを吐き出した――――――。
――――――
―――
「……」
「思い出しました?」
「…うん。私、吐いたよね…?」
「思い出したのはそこですか」
「いや、え、てか。七海に、吐かせてもらったというか、吐かされたというか…」
「急性アルコール中毒にでもなられたら大変なので」
「〜〜ッ!!!」
うわああああ!!恥さらしも程がある!
久々の再会で、吐いた姿を見られるどころか、そんな、吐かせてもらうなんてっ!!しかも私の口に指を入れ…入れて…っ
え、ちょっと待って。
確かめなければならない事がある。けれどそれを聞くのは…!!でも聞かなきゃわかんない。覚えてないんだから…っ
「あ、あの、私っ。
後片付けした覚えがなくて…」
「私がやりました」
うわああああ!!!
後処理までさせていたなんて…!!過去に好きだった人に、これ以上の醜態を晒すことなんてあるだろうか?!
吐いて、後処理させて、介抱してもらって、風呂にも入らず汚いままベッドを貸りて、何も覚えてないなんて…!!最悪すぎる!!
打ち拉がれている私に七海は「貴女、コンビニの袋持ってたじゃないですか。使わせてもらいましたよ」と。大人オブ大人の七海、流石です…。
私は情けなさ過ぎて、両手で顔を覆う。
「あんな姿を晒したなんて…っ!
もうお嫁にいけないっ」
「大袈裟な」
「置いて帰ってって、言ったのに…!」
「置いて行ける訳ないでしょう」
「う"」
そう、だよね。
いくら私が熊や不審者に襲われたって負ける心配がなくても、知り合いがあんな酷い酔っ払い方をされたら置いていけないよね。
「本当に、ごめん」
「別に大丈夫ですよ」
七海はこう見えてとても優しく、面倒見が良かったもんね。変わってないんだ、そうゆうとこ。
胸がキュッと締め付けられる。
この気持ちが七海に伝わってはいけない。私はそれを隠すためにも、深く深く頭を下げた。
「迷惑かけて、本当にごめんなさい」
「……それより、気分はどうですか?」
ぐぅぅぅー
盛大に、私のお腹が音を立てた。