第3章 変わらないもの(七海夢)※
「っふ、…ゲホゲホっ」
「大丈夫ですか」
タバコの煙にむせてしまい咳き込む。
カッコ悪いなあ、吸い慣れていないのがバレバレだ。ほんと、醜態を晒してばかりで恥ずかしい。
「パン屋」
「へ…ぱ、パン屋?」
「高専近くにあったパン屋、なくなったんですね」
「ああ、とっくになくなっちゃったよ」
「そうですか」
よく高専時代にお昼ご飯を買いに行った、思い出のパン屋さん。懐かしいなあ。
七海に会えて嬉しいのに、素っ気無い態度しか出来ない。…本来なら、七海のことを想えば、突き放すべきなんだろう。
けれど、俯いた顔を上げれば七海がいる。
手を伸ばせば届く距離にいる。突き放すなんて、今の私には出来ない。
「…今は、都心に移転したみたいだよ」
「もしかしたら、知らぬうちに買ってたかもしれませんね」
他愛のない会話がこんなにも愛おしい。同時に離れていた時間と距離感を痛感させられた。
「七海は都心でサラリーマンしてたんだもんね」
「知ってたんですか?」
「風の噂でね」
今、七海と目線を合わせて、笑い合って言葉を交わしている。それだけで心臓がバクバクで、緊張でぐるぐると視界が回りそう。
「街並み、景色、人。
みんな変わっていきますね」
「…私は変わらないよ
いつまでも変わらない、変えられないの」
「!、貴女は―――」
七海に会えて嬉しい。
しかし、それと同時にそんな風に思う自分にがっかりした。
ねえ、七海。なんで戻ってきたの?
どうして、ここじゃない何処かで幸せになってくれなかったの。
優しすぎるあなたには向いていない
もうあんな痛々しい姿はーーーーー。
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ピチチチチチ…
鳥達のさえずりと、カーテンから差し込む日差しで目が覚めた。
そこは見慣れない天井。
寝馴れないベッド。自分の部屋ではない、嗅ぎ慣れない空気。
え、これってデジャブ?
またラブホ??
「ふぁ〜〜…いたっ」
大きな欠伸をしながら起き上がると、頭がぐわんぐわんする。昨日は飲みすぎたんだった。それにしても今日はやけに身体が軽い気がする。よく眠れたのかな。
「あれ、私。昨日…」
どうしたんだっけ?