第3章 変わらないもの(七海夢)※
「五条も大概拗らせてるよな」
「さくらにはみーんな拗らされてるよ」
「はは、確かに」
伊地知まで「うんうん」と深く頷いている。
「すぐに言わなかったこと、許してね」
本人に届かない思いを、誰にともなく口にした――――――。
――――――
―――
日中はあんなに暑いのに、夜になると羽織るものがあっても良いくらい涼しくなる。
鈴虫の鳴き声を聞くともう秋が来たんだなあと思わされる。そうやって気づかぬうちにまた季節が過ぎ去っていく。
そんな事を思いながら、目の前の慰霊碑に手を合わせた。
「最近、来てなかったね
…ごめんね、灰原」
高専の敷地内の、ひっそりとした場所にある慰霊碑。そこには殉職者の名前が刻まれている。沢山ある名前のうち、灰原の名前を指でつっ…となぞる。
貰い物の一輪の花を慰霊碑へお供えする。コンビニで購入したタバコを袋から取り出すも、ライターがないことに気づいた。
「あは、酔っ払いの買い物はダメだなぁ」
つい買い忘れちゃうんだよね、と独り言を呟いた。
「煙草、吸い始めたんですね」
「?!」
1人だと思っていたため、背後から声を掛けられ飛び跳ねるくらい驚いた。しかも、大声の、酔っ払いの独り言を聞かれるなんて…っ
「……七海」
再会をしてから醜態を晒してばかりだ。
どうしてこんな所にいるの?と。
一瞬頭を過ったが、きっと五条の差し金だろう。
七海が私の方に近づいてくる。
まるで夢みたいだ。
大好きだった七海が私の目の前にいるなんて。未だに再会した事が信じられない。
けれど、再会しない方が互いに幸せだったに違いない。複雑な想いが、再び胸の中でぐるぐると回る。
私一人悶々としていると、七海はライターに火を灯し、「どうぞ」とスマートに差し出してくれた。
(…昔は、こんなじゃなかったのに)
急激に大人びた七海に寂しさを感じてしまう。いつまでも子どもじみた私はお礼すら言えず、手が震えそうになるのを必死に抑えながら火を貰う。
「昔は吸ってませんでしたね」
「ははっ、いつの話しをしてるの?」
七海に話しかけられ、心臓がドクドクと暴れだす。それを悟られないよう精一杯済まし顔を装った。