第3章 変わらないもの(七海夢)※
最近足を運んでいなかった事をふと思い出す。自分のことが分からなくなった今だからこそ、行くべきだ。
「ごめんね、お店には行けないよ。
…会いたい男がいるんで」
フラフラする足取りで、私は繁華街を立ち去った。
――――――
―――
※五条視点
さくらが出て行った居酒屋にて。
「あーあ。帰っちゃったな、さくらのヤツ」
「余計なこと言うからだろう」
まあ確かに、七海が戻ってきたから煽りすぎたかもしれない。硝子に窘められほんの少し反省するフリをする。
「七海も!悪かったって!」
「別に、私は」
関係ありません、なーんて涼しい顔しちゃって。僕がさくらに絡む度に、怒気を孕む言動が隠しきれていないよ?
ここはお詫びに、二人の後押しをしてあげよう。
「コレ、さくらんとこ持ってって」
七海にある物を投げる。
「ライター?」
「そ!多分、いや。100パー持ってないから」
何で私が、とか。
ワンクッション拒否されるかと思いきや、七海はすんなりとライターを胸ポケットにしまい「分かりました」と席を立つ。
あらら、僕が後押しをするまでもなかったかな?
「アイツ…さくらさ。色々と拗らせてんだよね」
居酒屋から出ていこうとする七海の背中に声を掛ける。
「七海を一番待ってたのはさくらだよ」
「―――何処に行けばいいですか?」
さくらに会いに行く気満々の七海にククッと笑ってしまった。
「場所は―――――…」
*
七海も出ていき、居酒屋にはいつものメンバー…さくらなしの、僕と硝子と伊地知の3人になってしまった。
「あーあ、主賓も行っちゃったねえ」
「今日は五条を慰める会だな」
「伊地知、慰めてー」
「えぇっ?!」
こうなるんじゃないかって心の何処かで思っていたけど、まさか本当にこうなるとは。
「七海が戻って来て嬉しかったけど、すぐさくらに言える訳ないじゃんね」
さくらと今の関係を大切にしたいと思いつつ、今よりも深い関係になれたら、と。ずっと願っていたのだから。