第3章 変わらないもの(七海夢)※
(そんなんじゃ…っ!)
決して意地を張っている訳じゃない。
七海が高専に戻って来て、自分の決意や信念が揺らいでわからなくなっている。
どうして呪術師をしてるのか
どうして呪霊を沢山祓ってきたのか
私は何を守りたかったのか
ただ、意味もなく祓っていただけなのか
「…ちがうってば!!!!!」
し…んと周囲が一瞬静まり返る。
私自身も驚くくらい、大きな声が出てしまった。
ああ、やってしまった。ほんと、最悪だ。
「生大ジョッキお持ちしましたー」
この空気の悪さを知らない店員さんが、飲み物を運んできてくれたのが助かった。
「…ッん!」
店員さんからジョッキを受け取り、一気に喉に流し込んだ。
「飲めないのに大丈夫?」
五条が生大ジョッキを飲んでいる私に声を掛ける。知らないよ、そんなの。
「それ、私が注文したのですが」
七海がやっと私を視界に入れて話してくれた気がする。…それだけで目頭が熱い。
もう!知らないよ、そんなの!
「…っはぁ!ご馳走様!」
一気飲みし終えた大ジョッキが思ったよりも重たくて、ダンッとテーブルに大きな音を立ててしまった。居心地の悪い空気を作ってしまい、申し訳なくて皆の顔が見れない。
またもや合コンと同じようにテーブルにお金を置き、呼び止められる声も無視して逃げるように居酒屋から飛び出した。
「ほんと、最低。私…」
個人的な感情…私の気分で、飲み会の空気をぶち壊してしまった。七海の出戻りを祝う会だったのに。
久しぶりだったから、硝子だけじゃなく、五条や伊地知にも会えて嬉しかった。
それなのに、私は……
「…意地、張ってるじゃんね」
バカみたい。
自分の事なのに、自分がわからない。
意味不明で気持ち悪い。
「お姉さん!僕と遊んでいかない?!」
東京の夜の繁華街を1人とぼとぼ歩いていると、明らかにホストの男性に声を掛けられる。いつも通り無視して歩いていると、
「お店、今日からオープンなんすよ!」
開店祝いなんで、と。
簡易包装された1輪の花を差し出され、何故か素直に受け取ってしまった。花の名前も分からないし、どうせすぐに枯らせてしまうのに。
(嗚呼、そうだ。あそこに行こ…)