第3章 変わらないもの(七海夢)※
「もしもし、硝子?」
緊急時かもしれないため、電話をしながら席を立つ。
「さくら」
「急な任務?」
「いや、急用があった訳じゃないんだ」
悪いね、と申し訳無さそうに言う硝子。
どうしたんだろう。元気がないように感じる。
(そんなの当たり前だ)
硝子は常に激務だ。
私とは違い、硝子にしか出来ない事が沢山ある。だから皆から頼られるし、自然と責務が重くのしかかる。
「硝子、大丈夫?」
最近、七海…いや、高専関係者と関わらないよう過ごしていたため、必然と硝子とも疎遠になってしまっていた。
「…お願いがある」
「なあに?」
硝子からお願いなんて珍しすぎる。
どうしたんだろう、一体何かあったのだろうか。
「今から―――……会ってくれないか?」
硝子のひと声で。
一目散に鞄を引っつかみお店から走り出した。あ、もちろんお金は多めにテーブルに置いてきた。すぐに大通りに出て「タクシー!」と手を上げ、掴まえると同時に飛び乗った。
大好きな、大切な硝子から珍しいお願いだ。
「すぐ行く!どこ?」
疲労困憊とか、酔が回って気持ち悪いとか。化粧が崩れるとか、綺麗に纏めた髪が乱れるとか。いつも気になる事が気にならないくらい、大急ぎで向かう。
「場所は――――」
――――――
―――
「……で?なにこれ?」
いつもの居酒屋。
大急ぎで来たから、巻き髪も化粧も落ちてそのまま。鏡を見てはいないが化粧で隠していた目の隈や疲れが顔に現れ、見るも無惨な姿になっているだろう。
「やっほーお疲れさん♪」
「私は硝子に呼ばれて来たんだけど…!」
何で目の前に五条がいるの???
五条だけではなく伊地知に、七海までいるではないか…っ
「だって僕がさくらを呼んでって、硝子に頼んだんだもん♪」
「しょーこっ?!」
硝子を見れば片手間で「ごめん」のポーズを取り、酒を飲んでいる。ちっとも悪びれていない。
「最近のさくらを心配してたのは本当」
「いくらなんでも任務入れすぎです」
「う"っ」
硝子と伊地知に言われると何も言い返せない。任務でも入れてないと余計な事を考えそうで、無理矢理詰め込んでいたのは事実だ。