第3章 変わらないもの(七海夢)※
知らなかったのは、私だけ?
五条も、どうしてすぐに教えてくれなかったんだろう。
(…教えてくれていたら、あんな明らかな朝帰りの姿で会うなんてなかったのに!)
学生時代のこととはいえ。
当時、好きだった人にこんな恥ずかしい姿で会いたくなかった!
乙女心の分からない(そもそも七海が好きだった事を伝えていない)五条の適当さに苛立ちを覚え、車内で一人頭を抱える。
…本当に、私には伝えなくて良いと思ったのだろうか。
五条と七海と、仲良しだと思ってたのは。私だけだったのだろうか。
(私だけ、除け者かぁ)
私になんて、伝える必要がないってこと?
そう思ったら胸の奥がキュッと締り苦しくなった。寂しくて、悲しくて
しんどい。
今のこんな自分を見られたくなかったし、こんな最悪な再会なんてしたくなかった。
伊地知が察してくれたのか、任務地まで何も話しかけないでいてくれたのが有り難かった。
* * *
「さくらちゃんはなんの仕事してるの?」
「お祓いやってるよ」
嘘は言ってない
だって毎日のように呪霊祓ってる
「え?!巫女さん?!」
「ふふ♪」
「え〜マジで!?
俺めっちゃ見たいんだけど!!」
巫女さんをしてるなんて言ってない
男側が勝手に解釈しただけ
(まあ、呪術師って言ったところでねぇ)
頭おかしい奴って思われるのがオチだから言わない。いくつもの合コンという名の戦場で学んだことだ。
仕事はきちんとこなしつつも、プライベートは合コンやデート三昧をする日々に拍車が掛かっている今日此の頃。
…原因は言うまでもなく、七海が高専に戻ってきたことだ。
五条にもしばらく腹を立てていたが、彼に腹を立てたところで良くも悪くも通用しない。だって五条だもの!(それに七海が好きだったなんて伝えていない)
「さくらちゃん、このあと俺と抜けない?」
「えーどうしよう!」
七海が戻って来てから、焦っている私が居る。
忙しくしていないと“色々”考えてしまいそうで。あと、揺るがない“何か”が欲しくて仕方ない。
その“色々”も“何か”もわからないまま、今日も疲労困憊する身体に鞭打って忙しく過ごす。
「ん?」
ふとスマホを見ると、硝子から着信が来ていた。