第3章 変わらないもの(七海夢)※
「あー飲み過ぎた。今日は遠方任務だっけ?
とりあえず、高専行かなきゃ」
重い足取りでラブホから高専に向かう。
服は昨日と同じだけど、まあ、いつも同じようなデザインだしバレないだろう。化粧は面倒臭いから軽めに済ました。
……運命の人を探し求める乙女は、いつも化粧品セットを持ち歩いているんです!
って、自分のダラシなさを何故自分自身に言い訳しているんだろう。
(いつまでこんな事してられるかな)
今は若いからこんな生活を繰り返していられるけど、あと数年したら無理だろう。
いや、別に男遊びをしたい訳ではなくて、良い男を掴まえて幸せになりたいだけ。なんなら結婚でもして、呪術界から綺麗サッパリ未練も縁も切れるキッカケが欲しい。
「……うん。今日の私も良い感じ」
建物のガラス窓に映る自分の姿を歩きながら確認する。
私は知っている。
どのような化粧が、髪型が、服装が、振る舞いが、男を悦ばせられるのか。
自分の生まれ持っているものを、どうしたら男ウケに生かせるのか。
「幸せに、なりたいな」
私は分かっている。
自分みたいな教養も中身も空っぽな女は、若さがある今しか取り柄がないということを。
若さ短し恋せよ乙女、だっけ?
本当にその通りだと思う。だから今のうちに、自分の総力で幸せを掴まなければならない。
「あっつー
夏も終わりに近いっていうのに」
夏は嫌いだ。
自分の人生で一番楽しかった思い出が多い、青春を代表する季節。それは二度と戻れない過去であることを残酷に突き付ける。
汗を流しながら高専に続く階段を登り切る。すると前方に同級生の五条悟と、見慣れない背恰好の、スーツの男性が歩いていた。
「おっ、さくらじゃーん!
丁度良いとこで会ったね♪」
「凄く機嫌が良いね、五条は」
私は会いたくなかったな。
なかなかタイプだった男性とワンナイトで関係が終わってしまったこの傷心に、そのテンションの高さはちょっとついていけない。
五条も分かっているのか「今日も朝帰り?いやらしい〜!」なんて言ってくるが、無視した。
「そりゃそーだよ!
なんてったって、戻ってきたんだから!
七海が」
「はい?」
何を言ってるの、五条は。
ぜんっぜん笑えないんだけど。