第3章 変わらないもの(七海夢)※
――――桜咲く、この季節は。
慣れたモノとの別れと、新しいモノとの出会いの門出の時期。
そんな門出に桜の木の下で、ひとり卒業する後輩がいた。彼は悲しそうに卒業証書の丸筒を握っていた。
「私ねっ、七海が……」
「私はあなたを先輩と思ったことはないし、
只々面倒な人でした
もう関わることはありません」
一世一代の告白。
好きだった後輩にフラレた。
いや、告白さえさせてもらえなかった。
フラレることすら出来なかった。
(―――告白、だったのかな?)
大切な同級生がいない卒業式は、とても切ないものだ。
彼の背中が、とても寂しそうで―――辛そうで。
なのに、何もしてあげられなかった。
桜舞い散る中に、辛い記憶を閉じ込めた。
だからもう思い出す必要はない。
でも
でも
あの時の私は、
なんて言おうとしたんだろう―――。
―――――――――
――――――
―――
「…………嫌な夢」
目が醒めると、そこは見慣れない天井。寝馴れないベッド、嗅ぎ馴れない空気。見慣れた安っぽい装飾の―――ラブホテルの部屋。
昔の夢を見た。
夢特有のアレで、醒めると忘れてしまったけれど。1つだけはっきりと覚えている。
「フラレた時の夢かあ」
何で今更そんな時の夢を見たのだろう。
そんな過去のこと、思い出す機会もなかったのに。何故か目から水分がツゥーと一筋流れ落ちた。
「…絶対、この人のせいだ!」
隣に寝ている、ワンナイトを共にした男。
背が高くスラッとしていて、ハーフ顔で色素が薄め。
なんとなく、本当に何となくだけれど。学生時代に好きだった後輩を連想させた。
いや、夢のせいで連想しただけだ。
(…帰ろ。というか、任務あるし)
そう、昼過ぎから任務が待っている。さっさと服を身に纏い、身支度を始める。
「あーヤバい!時間ないっ」
今日もラブホから高専へ直行になりそうだ。我ながらクズになったなあと思う。
以前は世のため、人のために呪霊を払い仕事をしようと志していた。今はただ与えられる仕事をこなしているだけ。
ベッドに寝ている男に声すら掛けず、そのまま部屋から立去る。