第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
さくらさんの頬の涙の痕と、濡れた睫毛をスッと手で拭う。
「わっ、…なっ、な、ななみ?!」
貴女からしょっちゅう触れてくるくせに、こちらから触れると頬を赤らめるなんて。
目を丸くして驚くさくらさんが面白くて、可愛くて。思わず笑ってしまった。
「いいですよ」
「えっ?」
「行きます。今日ぐらいは」
「……うんっ!」
それで貴方が喜ぶのなら、喜んで。
「「俺等も行くわ!」「私達も行くよ!」」
自分とさくらさんの間を、五条さんと夏油さんが慌てて割って入って来た。
…だから、貴方達の大切なモノを獲るような事はしませんよ。
「じゃあ皆で行こう!
美味しいもの、みんなで食べたら楽しいよ!」
「硝子も行くよね?!しょーこー!!」と大声で家入さんを呼ぶさくらさん。先程の涙で睫毛を濡らす彼女は一瞬で何処かへ行ってしまった。今は偽りのない眩しい笑顔を、みんなに振りまいている。
(さくらさんが楽しそうなら…)
彼女が幸せなら、それでいい。
“初恋は実らない”
(昔の人は、よくそんな言葉を作ったな)
初めての恋をし、初めての失恋をした。
全身を汗で濡らす、真夏日のことだった。
*
―――これは後日談のこと。
敵の攻撃を避けるため高層ビルから身を投げ出し、意識が薄れる中。さくらさんは不思議な光景を見たようだ。
「すっごく空が青かったの。
澄んだ青さっていうのかな?
都会とは思えない晴天で…」
「いえ、帳はいつもと変わりなかったと」
「そうだよねぇ」
見間違いかなぁ?と首を傾げ考え込むさくらさん。任務が終わり高専の廊下を二人で歩いていると夜蛾先生に「さくらー!ちょっとこっち来い!」と呼ばれる。
「はーい!なんだろ?
じゃあね、七海!お疲れさま!」
――これもまた後日談のこと。
「階級が上の後輩と任務させれば刺激されて、さくらもやる気が出ると思っていたのだが…」と、夜蛾先生は呟く。
どうやら夜蛾先生はさくらさんの階級を上げたかったらしい。
しばらくしてさくらさんは4級呪術師から飛び級して、準一級術師となる。
*