第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
それから数分後、家入さんが到着した。
「いつまで泣かしてんだ、クズ共!」と五条さんと夏油さんを退けるまで、自分達1年は先輩達のやり取りを見守り続けた。
先輩達には到底敵わない
自分の一方通行の恋も、叶わない
いや、最強コンビの先輩達ですら、
さくらさんには誰もかなわない
(貴女は勝手な人だ)
さくらさんのせいで、パスタ派だったのにパン好きにさせられて。
気がつけばさくらさんの名前を自然と呼べるくらい、仲良くさせられていた。
さくらさんから何も学ぶ事はないと思っていたのに、学ぶ事だらけだった。
(貴女の煩わしさが、本当に嫌だった)
いつの間にか、気づいたらそれが心地良いと思う自分が居た。
好きだと気づいたときには、全てが手遅れだった。
当初通りさくらさんは、やっぱりなるべく関わりたくない面倒な人だった。
人を散々振り回しておいて、結局……
「ねぇねぇ、七海」
「何ですか」
「僕達、フラレちゃったね!」
とても嬉しそうにそう言う灰原に、度肝を抜かれた。
どうして自分がさくらさんを好きな事を知っているのか。灰原もさくらさんがの事が好きだったのか。何故、そんな風に笑っていられるのか。色々と疑問に思ったが……
「七海ぃ〜!灰原ぁー!!
本当にごめんねぇーっ!」
「「うわ?!」」
家入さんに治療してもらい元気になったさくらさんが、自分と灰原の間を割って自分達の腕に抱きついてきた。……昼間の“サンコイチ”の状態だ。
「七海さ、言ったよね!
今日は任務帰りに氷菓屋さん、寄ってくれるって!」
「はい??」
「珍しく言ってたね!僕も聞いてたよ!」
「奢るからさ!2人とも一緒に行こう!」
「え〜?悪いですよー!
ありがとうございます!!!!」
先程まであんなり取り乱して泣いていたさくらさんは、いつものさくらさんに戻っていた。ケロリとした表情で自分と灰原の腕を引く。
―――いや。ケロリとしたフリをするさくらさんの頬には、まだくっきりと涙の跡が残り、涙で濡れた睫毛は乾いていなかった。
それがとても健気で、愛しい。