第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
ザアァァァア――――――ッ
「ッ!」
「うおっ?!」
真夏日とは思えない強風なからっ風が、自分達を追い越していく。
「この風は……!」
さくらさんは何か感じるモノがあるのだろうか。風の吹く方を、瞳を大きく開けてじっと見つめる。その瞳が沢山の光を掻き集めて、キラキラと輝く様に目を奪われた。
さくらさんに気を取られていると。
本当に、本当にとても微力な力で、トン…と自分の体を押し退けられた。さくらさんはスルリと自分の腕から抜け出し、風の通り道の真ん中に立つ。
「一瞬しか見えなかったから、夢かと思っちゃった
来てくれたんだね
………五条、夏油っ」
強風がピタリと止み、さくらさんの目の前には虹龍―――夏油さんが呪霊操術で使役する呪霊が姿を現した。
「そりゃあ、さくらの頼みだからね」
「お疲れサマンサー!」
虹龍と同時に、それの頭部に乗った五条さんと夏油さんの姿も現れた。
「あれ、硝子はまだ来てないのかい?」
「さくら、お前マジであれは…」
「…ありがと、来てくれて」
「「!」」
陽気な2人だったが、さくらさんの容態にすぐ気づく。虹龍から飛び降り彼女の元へ駆け寄った。
「やりすぎだろ、バカ!」
「傷が酷いじゃないか!」
「……った…」
「は!?」「ん?!」
怪我が酷いさくらさんは深く俯く。
その様子に何事かとオロオロとしだす最強コンビの五条さんと夏油さん。
「…こ、わ…かった」
無表情を装うさくらさんの頬を、大粒の涙がぼたぼたと濡らす。
「…もう敵はいないよ。
私達が片付けてきたからね」
「お前等がやられた分も、きっちりやり返してきてやった」
夏油さんの手がさくらさんの頭に、五条さんの手がさくらさんの肩に。
まるで小さい子をあやすように、安心させるように、優しくポンポンと触れる。
「まあ、お前にしたら…
さくらにしたら、よくやったんじゃねーの?」
「うん。よく頑張ったね、さくら。
もう大丈夫だよ」
「……」
そのやり取りを皮切りに、さくらさんの中で何かが弾けたようだった。