第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
「僕は、さくらさんを犠牲にして
やっと命からがら逃げたのにっ…
夏油さん達は、一瞬で
敵をやっつけちゃうんだね…ッ」
灰原が拳をギッと握る。
嗚呼、そうか。
さくらさんはいつもこの二人の傍に居たんだ。いくら努力しても埋めようのないこの実力の差に、きっと愕然としたんだろう。
自分の力が、存在が
無意味に、無力に感じたんだろう。
今ならわかる。
さくらさんが階級に拘った理由が…
「―――――悔しい、な」
自分と灰原と、さくらさんの想いを代弁するかのように自然と口をついて出た言葉。
それでも諦めず、頑張り続けるさくらさん。そんな貴方を心から尊敬し、より一層慕わしくなった。
マンタの呪霊が降下し、自分達を補助監督の車の付近の地上―――郊外に近い裏路地へ下ろす。
補助監督の姿は見当たらないが、きっと帳や援護の関係で此処に居ないのだろう。
「…ぅ…、ここ、は?」
自分の腕の中で目が覚めるさくらさんの声がした。
「さくらさんッ」
「さくらさんっ!!大丈夫ですか?!」
「七海と、灰原?…!…怪我は?!?」
ガバッと自分の腕の中で急に起き上がるさくらさんを危うく落としそうになってしまった。
「今の貴方より大丈夫ですよ」
「家入さんに治してもらったので元気です!」
「良かった…!無事だったんだね…っ!」
ボロボロにも関わらず人のことを心配するさくらさん。自分の服をギュゥッと握るので、不思議に思い彼女を見る。
自分の腕の中には今にも泣き出してしまいそうな、クシャクシャな笑顔で強がっている彼女がいた。
きっと、本当に自分と灰原の安否を心配してくれたのだろう。そんなさくらさんの姿に胸が痛んだ。“彼女の支えになりたい”と自然と思った。
「ありがと、七海。降ろして?
立てるから大丈夫だよ!」
「いえ、あんまり無理は…」
怪我が酷い貴方を…いや、気丈に振る舞うさくらさんをもちろん心配してるが、短い時間でも良い。腕の中に貴方を閉じ込めておきたかった。
下心を繕い「無理しない方がいいですよ」と言いかけたその時、強い風が巻き上がった。