第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
さくらさんが走り出して間もなく「居たぞ!捕まえろ!!」と呪詛師達の声が聞こえた。
「…灰原、歩けますか?」
「大丈夫、歩くよ」
自分の肩に灰原の腕を回し、今出せる全速力でその場を後にする。
不甲斐ない
自分の力を見誤った事はないし、見誤ってもいない。
けれど、自分の力では現状打破できない事、好きな人を囮にしなければならない事がどうしようもなく、自分自身に腹が立った。
*
(…早くッ)
早く早く早く早く早く
何処だ?何処にいる…?!
五条さんと夏油さんが来た。
家入さんに怪我を治してもらった。
あとはさくらさんを見つけるだけ。
ドオォォォォン―――――ッ
背後で大爆発が起こる。
大爆発の起きた場所へ駆け寄ると、テナントの半分は大破し、砂埃が濛々と巻き上げ視界を遮った。
テナントの隅の大きな窓ガラスに人影と、それと対峙している誰かのやり取りが僅かに聞こえた。
「アンタ達にやる命なんてない」
聞き慣れた好きな人の声がした。
「さくらさん…?」
「立つことすらやっとのくせに手こづらせやがって!死ねえッ」
「さくらさん!!!!」
ほんの少し視界が開けた。
視えたのは敵がさくらさんに攻撃を放った所。そしてそれを避けるためにさくらさんが窓ガラスを破り、落ちていく姿。
まさしくそれは、死―――
「さくらさんッ!!!!!!」
スローモーションで落ちていくさくらさんに手を伸ばすも、遠すぎて全く届かない。
ああ
嗚呼
なんて無力なんだ
「七海は呪詛師を捕まえてくれるかい?」
「ッ!!」
自分の両横を一瞬で通り過ぎた2つの影。
過ぎ去る間際に掛けられた、これもまた聞き慣れた声がした。
「夏油さん、五条さん…ッ!」
二人はさくらさんを追いかけるように、彼女が落ちた窓から躊躇なく飛び降りていった。
*