第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
「なんっで、今…ッ」
こんな話をするんですかと
言いたいのに言葉が詰まる
こんな場所で、こんな最悪なタイミングで
貴方の胸の内を聞きたくなかった
「…なんでだろうね。
今、話したくなっちゃったの」
厚葉さんがスッと自分達から離れていく。
「ここも時期見つかる」
「…駄目です」
仲間思いで自己犠牲が強い貴女がこれから取ろうとする行動が、手に取るようにわかる。
「う"…」
「灰原、大丈夫か…?!」
「悪いけど灰原、動ける?」
「……は、…い…っ」
「帳を抜けて、二人で五条と夏油を呼んできて」
迅速で的確な、残酷な判断を言い渡す。
「駄目だ…ッ!!」
「大丈夫だよ、2人ならできる。
私の術式なら時間稼ぎも出来る」
貴女はなんてことないように「あ、ついでに硝子も呼んできて。あの3人、今日は非番なはずだから!」なんて、ワザと明るく言ってのける。
「1番最悪なケースは、誰一人生き残らないこと。最良なケースは、誰一人死なず現状から抜け出すこと。
私なら、出来る限り最良なケースにもっていける」
貴方の言っていることが正しくて、黙って聞いていることしか出来ない。一刻を争う状況を頭では理解しているのに、気持ちの整理ができない。
前だけを見据える貴女は術式発動の準備をする。
「なるべく敵を、階段とエレベーターに寄らせない」
やめてください
「…合図したら、走って。3、2、1……」
…やめてくれッ!!!
「さくらさん…ッ!!」
”絶対に死なないでください”
そんなフラグを立てるような事は言えない。
(お願いだから…ッ)
貴女はとても吃驚した顔でこちらを振り返る。
「七海に名前で呼んでもらうの、初めてだ!」
ふわっと、嬉しそうにさくらさんは笑う。
そしてそれを合図にさくらさんは走り出した。
闇深く、悪寒がする高層ビルの中なのに。
不思議なことに、一瞬だけ温かく優しい空気に包まれた気がした。
こんな状況にも関わらず、さくらさんのはにかんだ微笑に、彼女の力強さを感じた。
(綺麗だ)
今まで見たモノの中で、一番綺麗だった