第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
「はぁっ、はあっ、は…ッ」
「七海、灰原の傷が深いかもしれない」
「…クソッ」
昼時とは思えない、暗い高層ビルの中。
何故、自分達は命さながらに逃げ、身を潜めているのか。何故、灰原は意識を失っているのか。
(…なんてことない、
2級討伐の任務のはずだったのに…ッ)
「呪霊の大量発生は、呪詛師集団のせいだったんだね」
敵の術式は疎か、人数の把握すら出来ていない。おそらく20〜30人はいるだろう。そして実力が自分たちよりも上の呪詛師が確実にいる。
生存確率は絶望的だ。
「ねえ、七海」
「?…ッ」
敵から受けたダメージにより呼吸が整わず、返事の代わりに目線だけ厚葉さんに向ける。
「私のね、階級がいつまでもドベなのは。
階級がどうでもいいからじゃなくて、
階級に拘っているからなんだよ」
「…ッ」
この生死の瀬戸際に何の話ですか…ッ
まだ上手く声が出せず、あなたの話を聞く以外、為す術はなかった。
「五条と夏油は最強だし、硝子も反転術式の使い手で……私なんて、落ちこぼれでさ」
あなたは落ちこぼれじゃない
あの人達が異常なんだ
「…これ以上、強くなれる気もしなくて。
力に見合った階級付けられちゃったら、
なんか、もう。おしまいかな、って…」
現実を突きつけられるのが怖かったの。
それならこのままでいいやって思ったの。
厚葉さんの声が僅かに震える。
それを掻き消すように明るく話すあなたが、とても…
「…でも、私が階級に拘ったから。
こんな事になったのかな」
それは違うでしょう
「七海と灰原には迷惑かけたね」
任務で迷惑をかけられた事はありません
「沢山一緒に居たのに、
何も教えてあげれなくてごめんね」
教えてくれたでしょう
美味しいパン屋や、効率の良い戦い方、皆でわいわいと過ごすのが楽しい事とか
あなたが意外と真面目で努力家であることや、自分勝手に見えて実は相手を気遣う人だとか
そんなあなたになら振り回されても良いと思う、自分の知らなかった一面とか
あなたが好きだという、恋心とか
本当にどうでもいいことばかり
沢山教えてもらったし、与えてもらった。