第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
「精々頑張ってこいよなあー!」
「後輩に迷惑かけないようにね」
先輩達は厚葉さんに「さっさと行け」と言わんばかりに雑に手を振るも、面白くなさそうだった。
(…貴方達のモノを獲るような、
面倒臭い事はしませんよ)
だからそんな目で睨むのは辞めて下さい
…大切なモノなら、しっかり守っていて下さい
誰にも獲られないように、奪われないように
とは、言えるわけもなく。
そっと心の中で唱えながら、五条さんと夏油さんに背を向け廊下を歩き出す。
「ふーんだ!私が七海と灰原と仲良しだからって、僻まないでよね〜」
ガシッ
「?!」「わっ?!」
厚葉さんは自分と灰原の間に割り込み、それぞれの腕を組む。
急に腕に抱き着いてくるものだからバランスが取れず、3人の頭が打つかりそうになるくらい近い。顔と顔の距離が、今までになく近い。
厚葉さんの唇が、触れそうなくらい。近い。
「ッ…」
「私たち、サンコイチだもーんっ!」
厚葉さんは自分達1年の事はお構い無しに、五条さんと夏油さんに「あかんべー」と挑発する。
先輩達が後ろで「はあ?!」と何か言っているが厚葉さんは「逃げろ〜!」と灰原と自分の手を取って走り出す。厚葉さんにはされるがままだ。
(サイアクだ…ッ!)
こんな風に振り回されることも
不覚にも顔を赤面させられることも
厚葉さんの行動は、自分の予想の遥か斜め上をいく。
(絶対に知りたくない…ッ)
何故、五条さんと夏油さんにしか見せない表情があると知って胸が痛むのか
何故、自分達1年にしか見せない表情があると知って優越感があるのか
(ダメだ)
答えを導き出してはいけないと、頭の中で警報が鳴り響く。
これからの任務に集中しよう。
きっと今日も3人で上手いこと連携をとって祓って、厚葉さんが車の中で寝落ちして。何事もなく終わる。
そう言えば、厚葉さんが出来たばかりの氷菓屋に行きたいと言っていた。今日ぐらいなら、付き合ってもいいかもしれない。
自分でも珍しくのんきな事を考えていると呆れる昼時だった。
とても、穏やかな昼時だった
はずなのに。