第2章 後輩Nの苦悩(七海夢)
「米ひと粒ひと粒潰れず、ふんわり握れてて凄いっすよ!」
「…ほ、ほんと?」
「自分の好きな物は米です!」
「よかった〜!でも無理して食べなくていいからね?」
「自分、趣味•特技は大食いです!」
「そうなの?!じゃあさ!近くに美味しいおにぎり屋さんもあって、今度一緒に…」
行こう!と、彼女が言い切ることはなかった。
「灰原くーん!無理してこんなの食べなくてもいいからね〜〜!!」
「そうだよ、無理は良くないからね。無理は。
さくらの大食いに合わせなくて良いからね」
「お、大食いかも、だけど…!」
初対面の自分達の前で恥ずかしい思いをさせられ、赤面する厚葉さん。……五条さんと夏油さんに弄られ、少し不憫に思う。
しかし、またしても灰原の一言で全てが吹き飛んでいく。
「大丈夫です!自分はたくさん食べる子が好きです!!」
「は、灰原…っ!!!!」
べそをかいていた厚葉さんはたちまち笑顔になり、拝むように灰原を見つめていた。
「クズ共、灰原を見習え」
「「…ッ」」
家入さんの言葉に、返す言葉が見つからない五条さんと夏油さん。嗚呼、そうか。この二人は……
「はいはいはーい!灰原に質問ーっ!」
嫌な予感がした。
「なんですか?」
ダメだ、灰原。答えるな…ッ!
「と、年上の!たくさん食べる子は好きですか…?!」
「そんなの……
もちろんです!!」
嗚呼、もう。サイアクだ。
「きゃー!!聞いた、硝子!?」
厚葉さんは家入さんの手を取り「可愛い!可愛すぎるっ」とはしゃいでいる。家入さんまで「1年生達だったらいいよ、応援する」と煙草を蒸す。
(高校生が煙草は駄目だろう……というか、今)
1 年 生 達 だ っ た ら い い よ
見事に関係ない自分まで巻き込まれた。
その証拠に五条さんと夏油さんの不満そうな、悔しそうな視線がこちらに向く。事の成り行きに気づいていない灰原は高いテンションで厚葉さんとお喋りをしている。
「おにぎり屋さんとパン屋さん、行こうね!」
厚葉さんは楽しみだと言わんばかりに話しかけてくる。
…灰原はともかく、自分は誘わないで頂きたい。