第1章 報われない(五条/夏油夢)
「ほら、行くよ」
いつまでもしゃがみこんでいるさくらに手を差し出す。彼女の好きなレディーファーストを演じる。
好きなんだろう?
優しくされるのが
女扱いされるのが
そんなことでさくらの心が手に入るなら、いくらでもやってあげようじゃないか。
なるべく優しい力でさくらをスッと立たせる。
「あ、ありがとう…?」
「ん、どういたしまして」
(小さな手だ)
すぐ折れてしまいそうな、心許ない手。
私達に少しでも追いつこうと頑張っている掌は、可愛い彼女の顔に似つかずボロボロだ。マメが何度もできては潰れ、皮膚が歪に硬くなっている箇所がいくつもあった。
「夏油?」
「嗚呼」
手を離なさなければ
分かっているものの、手放すのが名残惜しくなってしまい、更にギュッと握ってしまった。
「え…?!なっ」
ほら、男慣れしていないから
ちょっとしたことで動揺する
そんなことでわーわーと騒ぐ君に呆れるも、それがとても可愛らしくて、愛おしい。
「ま、待って!ど、どこ行くの?」
「いつものゲーセン」
今日は一緒に行きたい
一緒に遊びたい、と。 素直に伝えた。
にも、関わらず……
「わ、私!行かない…っ」
「何でだい?」
「きょ、今日も合コンあるの!放課後に!」
「……何も聞こえないね、悟」
「ああ、何も聞こえねーわ、傑」
「今日は有名大学生となの…!
絶対に行かなくちゃ!!」
ふわふわとした心地良さから一変、瞬時で心が凍てついた。
絶対に行かせない。
本人は気づいてないだろうが、さくらは可愛い。性格だって悪くない、人を思いやれる良い子だ。
その辺の男達が放っておく訳がない。
そしてさくらも男性の免疫がない。変な男に引っ掛かるのが目に見えている。
さくらのケータイを取り上げ、悟と一緒にさくらを連行…いや、硝子や後輩達が待っているゲームセンターへ連れて行った。
*
「ッはあ〜〜疲れた!」
「ダンレボはさくらに敵わないな」
「ふふん!私、家庭用も持ってるんだよね!」
やり込んでるからね!と鼻をふんすふんすと鳴らしながら得意気にするさくら。