第1章 報われない(五条/夏油夢)
「……何も聞こえないね、悟」
「ああ、何も聞こえねーわ。傑」
「今日は有名大学生となの…!絶対に行かなくちゃ!!」
「はあ?!尚更行かせねーよ!!」
誰がみすみす行かせるかっつーの!
さくらのケータイを没収する。
流石に諦めたようで項垂れているさくら。
そんなに合コン行きたいのかよ。
俺にしとけよ
………なんて、言えたらいいのに。
「悟も大変だね」
さくらには聞こえない声量で傑がボソリと呟いた。
「うるせー」
それを合図に俺と傑はダッシュし、下向する階段をさくらに無断で飛び降りた。
「ぎゃっ!!?ジャンプしないでよっ!!
スカート捲れるっ!パンツ見えちゃう!!」
「大丈夫だよ、私達は見えない」
「そりゃ振り向かなきゃ見えないけども!!
周りに見えちゃう!!手放してよっ!!」
「冷え防止の黒の見えパン履いて完全防備ノクせに、見えるもんも見えねーよ」
「ちょ、何でしってんの?!」
「「ははははー」」
「ほんっとクズなんだけどー!!!!」
本当にどうしようもない。
こんな平平凡凡な女に振り回されて、楽しくて仕方ないなんて。
チラリとさくらの顔を盗み見る。
さっきまで文句タラタラだったくせに、何だかんだ楽しそうだ。
さくらが好きだ 大好きだ
口が裂けても言えないけども。
いつか言える日が来るだろうか。
*
「あっ、このぬいぐるみ可愛い…」
「頑張れば取れそー」
ゲーセンにて、UFOキャッチャーをガラス越しにさくらと硝子が覗いていた。
「どれどれ?」
「五条、取ってあげれば?」
硝子はニヤリとなにか言いたげな含み笑いを俺に向ける。
“ゲーセンでぬいぐるみ取ってもらうのが夢”
さくらが言っていたこと思い出す。
「言われなくとも」
やるに決まってんだろ、こんなん楽勝だ!
「えへへ〜やったあ!」
さくらは嬉しそうにゲーセンで取ったぬいぐるみを抱きしめる。