第1章 報われない(五条/夏油夢)
このままではいつか見知らぬ男にさくらを掻っ攫われてしまう。
「……俺が居るんだから、さくらは何もなくていーだろ」
この気持ちが伝われ、伝わるな
2つの想いが押し問答する
「俺がいるから、…最強に強いし最強に頭いいし
……………最強に、カワイイ」
恥ずい。死ぬほど恥ずい。
自分でも柄にもないことを言っていると思う。
「は……はあ?!」
「ッ、お前なあ!」
褒めてやってんだから可愛い反応しろよ!
そう言ってやろうとさくら見やる。
さくらは目を真ん丸にし、口を魚みたいにはくはくさせて驚いていた。しかもほんのり頰を染めて。
…んだよ、可愛い反応できんじゃねーか。
コイツ、また「私なんか」って言っている。
そうやって自分を卑下するな。自分で自分を呪うのはやめろ。
呪いは呪霊だけで十分だ。
「だーかーらー!そのままでいいっつってんだろーが!」
「わっ?!」
いつものように叩かれる
きっとそう思ったんだろう。
………俺もそうしようとした。
さくらはぎゅっと目を閉じ衝撃を身構えた。
その姿を見て、やっぱり子どもじみたままでは駄目なんだと。変わらなくてはいけないんだと、思わされた。
「…ッんだよ」
俺はさくらの頭をポンポンと、慣れぬ手付きで撫でた。
「……誰が叩くかよ、ばーか」
「だ、だって、」
さくらの顔が見れない。
(…顔が熱いッ)
多分、俺の顔は赤くなっているだろうから。
「ほら、行くよ」
傑が俺達に声をかける。
俺と傑はさくらの手をそれぞれ繋ぎ、逃げれないように捕まえた。
小さい手。
こんな手で呪霊払ってんのか。
守ってやりたい
自然とそう思った。
「さっさと歩けよ」
「ま、待って!ど、どこ行くの?」
「いつものゲーセン」
「きょ、今日も合コンあるの!放課後に!」
………ふざけんなコラ。空気読め。
好きな奴に「合コンへ行く」と言われると、こんなにも気持ちが抉られるもんなんだな。