第1章 報われない(五条/夏油夢)
「………いや、別にモテねーし」
「この間他校の女の子達にメアド聞かれてたじゃん」
「悟は目立つからね」
「夏油なんて任務帰りに年上のおねーさまに逆ナンされてるの見ました」
「「…」」
思わず傑と顔を見合わせてしまった。
さくらの頬が、不満と共に膨らんでいくのがわかる。
「いいよねーモテる人たちはさー」
(いいわけあるか)
顔良し、頭良し。そして強くてモテるという認識をされているのに、当の本人には意識してもらえない。こんな惨めな事あるだろうか。
「どーしろっつーんだよ…」
長い溜息が溢れる。
「ちょっと!話せって言っておいて何そのリアクション!」
お前の話がつまんなくて溜息ついたんじゃねーし。ショックすぎて否定する元気も出ね―よ。
「……私なんて、大して可愛くもないし?
頭が良いわけでも、強いわけでもないし?」
確かに。
頭が良いわけでも、ましてや強くもない。
だけど一般的に見て可愛い方なんじゃねーの?
(…嘘。めっちゃ可愛いけどな)
これが惚れた弱みってやつ?
「ほらっ、カワイイは作れるって言うし!
今のうちにモテを研究して、彼氏ゲットしたいの!」
「…作んなくていいわ、バーカ」
ふざけんじゃねーよ!
絶対に阻止してやる。
「彼氏できたらさ、手を繋いで歩きたいの。でね、ゲーセンでぬいぐるみ取ってもらうのが夢」
「ふーん」
しょっぼい夢だなあ、オイ。
そんな事でいいのかよ。
「……最強コンビの二人には分かんないだろうけど、私なんて華の高校生じゃなくなったら、なーんにもないの」
何もねー訳ねえじゃん。
さくらと一緒に居るだけで慌ただしく日が暮れていく。
勝手に人の心に居座りやがって。
さくらと出会うまでは、こんなに心乱される日が来るなんて想像もできなかった。ましてや、それがこんなにも楽しいだなんて。
俺のつまらなかった日常に、彩りを与えた。
…まあ、そんなこと、本人に言えるわけもなく。
「いいんじゃねーの。さくらに何もなくたって」
結局俺は再び憎まれ口を叩くことしかできなかった。
(いや、そんなんじゃダメだ)