第1章 1.
少し前の話。
[小さな巨人]
その存在が私にバレーを教えてくれた。
でも、運動神経を持ち合わせていない私にはバレーをやる選択肢はなかった。
それでもバレーへの思いは人一倍強くて、いろいろな高校バレーの試合を見たり、雑誌を見たりして、戦略は頭に叩き込んであった。
だからマネージャーになりたい。
願わくば、小さな巨人の居たところでー…
想いと人の目が天秤にかけられるけれど、今は圧倒的に人の目が重すぎた。
「男子バレー部です!!!!」
顔を俯かせて通り過ぎたけど、その声が私の髪を引っ張るような、そんな感覚。
ぐっと奥歯を噛み締め、小さく息を吐いて顔を上げる。
その瞬間ー…
(あ、時間(トキ)が止まるってこういう事を言うんだー…)
きれいな黒髪をなびかせ、とてもとてもきれいな…美人な女性の先輩が私の横を通り過ぎた。
ごくりと生唾を飲んで先輩を振り返ると、男子バレーボール部の人たちと
「ごめん、遅れた。」
「おぉ、気にすんな!清水。」
そうやり取りをしていた。
バレー部のマネージャーと理解するのには十分な会話だ。
桜と、太陽の光がよく似合う。私には眩しすぎるくらいに。
私とは正反対のその姿に見惚れてしまった。
“ただ、地味に、目立たず、陰キャでいい。
平穏に過ごしたい。
でも本当はー…”
私だって、キレイになりたい。
自信をもって、陽の下を歩きたい。