第1章 呪いの子
母は迷いなく言った。
そして男も驚きのあまりフリーズしたものの、答えは決まっている。
「ムリ」
「そこを、お願い致します」
「はぁ?」
男の額のシワが増える。
怖い。
母は私を離して、地面に手をつき頭を下げた。
泥水に髪が付いて綺麗だった髪は見る影もなく汚らしい。
それは、とても惨めで恥ずかしいとその時の私は思った。
『ママ!!やめてよ!!嫌だ!!』
母の肩を掴むと簡単に体が揺れた。
「お願いします…お願いします」
それでも母はブツブツと念仏のように男に懇願していた。
狂ってる。
おかしい。
周りの目が背中に突き刺さる感覚に血の気が引く。
「あのさ、アンタのこと知らないんだけど」
男はしゃがみ母と目を合わせた。
灰色に変わり見えずらくなった目をじっと見つめている。
「私は知っています。貴方のこと…そしていずれこの子も知ることになる」
乾いて傷だらけの母の唇から出た言葉に、男の黒い瞳が私を見た。
その瞳は優しい物ではなく邪魔者を見る目だった。