第1章 呪いの子
ーー「この子を守ってください」
雨の日。
災厄な日だった。
何故か外に出ると言った母を支えて雨の中を歩く。
『ママ…大丈夫?』
つないだ手が黒く揺らいでいる。
危なっかしい足取りでどこへ向かうのか。
太陽が雨雲に隠れて薄暗く湿った匂いがする。
着いた場所は定食屋。
母はもう食べれないのに…
『ママ?』
「…ごめんなさい」
腕を引かれて中に入ろうとした瞬間に男が出てきた。
背が熊の様に高く、闇のように深い黒い瞳。
何もかも諦めたような瞳だった。
怖くて母の後ろに隠れると、横を通り過ぎて行く。
その背中を見つめていると母は私の手を離して歩き出した。
『あ』
そして男の背中に体当たりをかました。
「っ…うぐっ」
「あ?」
母は泥の水たまりに倒れ込んだ。
今のはどう見ても母から当たりに行っていた。
それは男も感じたようで不快そうに振り返り母を見下す。
棒の様な母がぶつかっても大木はピクリとも動かないらしい。
頭から泥を被った母は汚らしく起き上がる。
『ママ!』
ハッとして震える足を動かし手を伸ばすと母は握り返してくれた。
「…お願いします」
母は外では絶対取らないフードを脱いで顔を上げる。
男は顔を見て怪訝そうに口を結ぶ。
この人も同じだ。
母を見た目で拒絶する人。
早く離れようとしたら母は思いもよらないことを言った。
「この子を守ってください」
いつもより雨音が大きく聞こえた。