第1章 呪いの子
「知ることになる…ねぇ」
男は腕を組んで首を傾けた。
そして獲物を見るように鋭い視線が私を射抜く。
雨音が鮮明に聞こえて心臓が煩い。
「私には時間がありません。だからこの子の父親になって下さい」
「ハ?」
男の嫌そうな表情に顔を逸らす。
『ママ、私一人で平気。だから帰ろう』
「…嫌よ…私が、嫌なの」
母は震える手で私を抱きしめた。
「貴方を取り巻く、全てから守りたい」
『…ママ』
「この人じゃないと…ダメなの」
母の冷たい手が何故か暖かく感じた。
残り少ない命の炎がまだ消えぬと抗いていた。
「はぁー、めんどくせぇ」
男は立ち上がると私たちを無視して歩き出した。
私はそれでいいと思った。
母だけでいい。
他人なんて大っ嫌い。
早くどこかへ行ってしまえ。
「待って!禪院甚爾!!」
男の足が止まる。
「…なんで俺の名前を知ってる?」
振り返る男は目が光った様な気がした。
『ママ、帰ろう』
これ以上この人に近づいちゃダメだ。
命の危険を感じて母を引っ張るが、彼女は黒く変色した顔で甚爾を真っ直ぐ見つめた。
「未来を…知りたくないですか?」
母の言葉に甚爾は心底嫌そうに歩み寄ってきた。