第2章 黒き水
甚爾は登校した時と違い、帰りはノロノロと階段を降りていく。
その背中に手を振る。
『帰りは、迎えいらないからねー!!』
甚爾は振り返らず手を振り返すだけ。
吐き気も治まり、予定よりも1時間も早い。
高専へ向かうべきか迷う。
ポケットから古いペンダントを取り出して首にかける。
『…行こ』
行くしかないのだ。
新しい学校。
きっと素敵なことが起こるはず。
沢山の友達に優しい先生。
ここでやり直すんだ。
全て…
階段を上がっていく。
長い階段に息が切れる。
どうしてこうも広いんだ…
汗だくで気持ち悪い。
階段を登りきると息切れしていた。
『おお…でかい』
顎まで流れる汗を拭って上を見上げる。
前の学校より綺麗。
足音が聞こえて横を向くと似たような制服を着ている男子がいた。
「君、編入生かい?」
オールバックにした黒髪を後ろで緩く結っている。
頷くと人当たりが良い笑顔が返ってきた。
「ここは迷いやすいからね、職員室まで案内するよ」
綺麗な人だが甚爾によって耐性がついた私は特に興味も惹かれず軽く頭を下げる。
『…どうも』
最初だけだ。
みんな最初だけ優しい。
知れば知るほど離れてい行く。
先に進む彼の後を追うと、私に合わせてゆっくりと歩いてくれる。
この人、学級委員長か何か?
なぜこんなに優しいのか…
疑問の視線をジリジリ送っていたら彼が振り返る。
「何か分からないことがあったら、なんでも聞いてね」
そう言って困ったように笑った。
『…はい』
睨み過ぎてしまった。
気をつけよう、と私は視線を建物へ向けた。