第2章 黒き水
乙女の恥じらいを気にする余裕はなかった。
抱き上げられた時はドキドキしたが、今は違う意味で動悸がする。
「まだ早かったか」
サラッと言う甚爾に苛立つが反論する元気もない。
『う…おェ』
「平気か…意識飛ばすなよ?」
丸まった背中を優しくさすられるから余計に吐いてしまう。
『あ、…朝ごはんが』
「んなの、どこかで買えばいい」
そっとして欲しいとも言えず、腕を引かれて立たされる。
まだ目眩がして甚爾によろけると意外にも支えてくれた。
『もう一度…食べれる、気がしない』
「おい、寝るなって」
『…うぇ』
「だから体力つけろって言っただろ」
少し楽しそうに言う甚爾。
これは体力の問題なの?
二度と送って欲しいなんて頼まない。
ーーー
ベンチに横になっていると甚爾が戻ってきた。
サラサラと揺れる木々と涼しい風で少しは回復し体を起こす。
甚爾から受け取ったスーパーの袋には、水のペットボトルとサンドイッチが二つ。
「落ち着いたか?」
水を飲む私の隣へ腰を下ろし、相変わらず長い足を組んだ。
『…ここどこ?』
「んー、呪術高専」
『は?』
目を見開くと首を斜め上に向ける甚爾。
その先には大きな建物。
『う、嘘だよね』
甚爾を見ると目を逸らした。
『何したの?手品!?私気を失ってたとか?』
「ちょっと足が早いだけだ」
『絶対嘘!!電車で2時間もかかるんだよ!?』
「そうだっけか?」
驚きのあまり落としてしまったペットボトルを拾い上げる。
水が半分以下に減ってしまったが、それどころじゃない。
『ありえない…夢?』
「帰りも迎えに来てやるよ」
『いいよ!来ないで!!』
もう二度と吐きたくない。
笑う甚爾に全力で首を左右に振った。