第2章 黒き水
気にする素振りもなく立ち上がる甚爾が側に来る。
『冗談だからいいよ。気にしてないし』
誰かに送ってもらうことが憧れだったけど、想像通りにならないことは多々あること。
気まずくて視線を下げる。
大丈夫、いつもの事…
『じゃあ、行ってきます』
振り返ると眉間に皺を寄せていた甚爾が真後ろに立っていた。
『きゃっ!』
腕を引かれてバランスを崩すと膝下に腕が周り抱き上げられた。
いわゆる、お姫様抱っこ。
『は!?なんで!!』
「高専まで送って欲しいんだろ?」
驚いて顔を上げると頬にモチっとした胸筋が当たって心臓が早まった。
いつもジャージを着ていて巨大な熊のように見えていたが、触れて初めて筋肉だと実感する。
たとえ義父でも異性に触れた事がなく軽く、パニックを起こしていると甚爾がにっと笑った。
「口閉じてろよ、舌噛むぞ」
反論の声をあげようとしたら景色が変わる。
あまりの速さに体が引っ張られて息が詰まる。
…苦しい。
その場に留まろうと、体が引っ張られる感覚。
『うっ…』
数秒して動きが止まりたまらず甚爾から飛び降りて地面へ這いつくばり嘔吐した。
内蔵が揺すぶられる感覚が不快でしかない。