第2章 黒き水
『高専まで送ってよ』
つい出来心で甘えてしまった。
「…ヤダ」
朝食を食べ終え皿を洗いながら甚爾に聞いてみると、予想通りの答えが返ってきた。
『最低』
「少しは体を動かせ」
今通っている高校は徒歩で通えるほど近いが高専は違う。
家から何時間かかると思ってるんだ。
何食わぬ顔で新聞を読みながらお茶を飲んでいる。
少しは興味持って欲しい。
『もういい、電車乗る』
初めての電車。
怖いけど一人で乗れるもん。
もう17歳なんだから。
断られることは予想していた。
自分で高専に行くと見えを切ったのだ、しっかり歩いて体力を付けよう。
新しい制服に袖を通して鞄を背負うと甚爾が横をすり抜けた。
『また競馬ー?』
「送ってく」
『え?』
甚爾はだるそうに腕を回してから、ドアに手をかけた。
『…車ないじゃん』
「そんなのいらねぇだろ」
はぁ?
「外で待ってる」
『え!?ちょっと!』
手をヒラヒラ振って外へ出ていく背中を呆然と見つめる。
『冗談だっんだけど…』
急いで髪を整えてハンカチを持ち外へ出ると座り込んでいた甚爾。
『ねぇ、ほんとに平気なの?』
いつになく不安そうな私に眉を顰める。
「俺を誰だと思ってる」
『ギャンブル中毒』
「違いねぇ」
毒を吐いたつもりなのに、どこか楽しそうに笑う甚爾。