第2章 黒き水
不満そうな甚爾を押し切って編入手続きを済ませた高専は、家からかなり離れていた。
オーブンに突っ込んでいた三枚の食パンにベーコンとサラダとゆで卵を乗せてお皿を運ぶ。
二枚乗った皿を甚爾の前に移動させて手を合わせる。
朝食と夜食は一緒に食べる約束をしていた。
家族というものが分からないと言った甚爾に絵本で見た家族のシーンをいくつか見せたその1つ。
〝ご飯は一緒に食べましょう〟
料理はあまり得意じゃない2人。
毎日焼いてるのに焦げている食パンを無言で食べる。
甚爾の携帯が鳴った。
何食わぬ顔で電話に出ると面倒くさそうな顔をして、あーだこーだ言っている。
電話を切った甚爾は不機嫌な顔をしていた。
『お仕事頑張って』
甚爾が口を開きかけた所で先に伝えると不満そうに頬杖をついた。
「わかってる…でも一日ぐらい休んだって罰は当たらねぇだろ」
家のローンは残ってないが今後何が起こるか分からない。
母の様な貧乏な暮らしはまっぴら御免だ。
『貧乏な家にいたくない。ギャンブル止めるなら休んでもいいよ』
「…はぁー」
目元を押さえて上をむく甚爾。
〝私が学校行っている間は仕事に行って〟
中学時代、家でゴロゴロしていた甚爾に痺れを切らして言い放った言葉。
それから5年間守り続けている約束。
おかげで通帳は輝かしいものになった。
下着の引き出しの下に隠していることは甚爾には内緒。
ちなみに甚爾が稼いだお金は半分づつにしており、私は貯めているが甚爾はギャンブル等に使っている。
ギャンブル中毒なのか土日にたまに出かけていた。
勝った所を見た事はないのに何が楽しいのか、なぞである。